欧州における臨床試験の新しい規制環境(EU CTR)を読み解く

feature image

欧州連合(EU)が導入した臨床試験規則(EU) No.536/2014(CTR)が2023年1月31日に発効し、これによりEU27か国とアイスランド、ノルウェーおよびリヒテンシュタインからなる欧州経済地域(EEA)では臨床試験の規制の枠組みが大きく変わることとなりました。この新しい規則は、臨床試験プロセスを合理化し、患者の安全性を向上し、また透明性を高めることを目的としています。本規則の要件を理解することは研究者や治験依頼者をはじめ、臨床試験のすべての関係者にとって極めて重要です。ここでは、CTRの主な要件と、この新しい規制環境に対応するためのポイントを簡潔にご説明します。

•    適用範囲と用途
まず、CTRの適用範囲と用途を理解することが重要です。本規則は治験薬、バイオテクノロジー製品、先端医療医薬品(ATMP)などをはじめ、ヒト用医薬品を用いて行われるすべての臨床試験に適用されます。本規則は介入臨床試験のみを対象とし、非介入試験と医療機器の試験には適用されません。

•    申請手続き/窓口の一本化
CTRによってもたらされた大きな変化の1つは臨床試験の認可申請の手続きが一本化されたことです。これまでは試験に関与する各加盟国に対し個別に申請を行っていましたが、新しい規則の下では、治験依頼者は臨床試験情報システム(CTIS)を通じて、全EU加盟国に対し1つの申請書を提出するだけで済みます。

CTISについては「CTIS:EU CTRにおける治験申請の教訓とベストプラクティス」もあわせてご覧ください。

•    統一された、迅速な承認続き 
申請手続きと承認システムを一元化することにより、多国間臨床試験の承認スケジュールがすべての申請国で同じとなるとともに、大幅に短縮されると予想されます。これにより試験の準備期間を短縮でき、医療技術をこれまでよりも早く患者に届けることができます。

•    報告の簡素化と安全性監視
臨床試験における安全性に関わる問題を報告する簡素化されたプロセスの利用が求められます。重篤な副作用や有害事象が発生した場合、治験依頼者は速やかにEU安全性データベース(EudraVigilance)に報告しなければならないとされています。さらに、年次安全性報告書の報告要件が統一されて事務処理の負担軽減と効率化が図られています。

•    臨床試験データベースへの公衆アクセス
CTRの重要な焦点の1つは透明性です。EU域内で実施される臨床試験は、すべて、EU臨床試験データベースに登録されなければなりません。さらに、治験依頼者は、臨床試験の結果にかかわらず、その要約を公のデータベースに掲載することが義務付けられます。透明性の向上によってアカウンタビリティ(説明責任)が改善され、貴重な試験データについて公による科学的精査が可能となります。

•    患者の安全性の向上 
本規制は患者の安全性向上を重視しています。インフォームドコンセントの要件を厳しくすることで、試験期間中を通じて治験参加者の権利と福祉を担保します。

•    連携・協力
CTRは臨床試験プロセスの合理化に向けて、EU加盟国間の協力を促進します。臨床試験プロセスの合理化によってEU加盟国の協同による評価作業が促進され、作業の重複がなくなり、承認手続きが迅速化されます。

•    低介入臨床試験の簡素化
低介入臨床試験については、試験のリスクが小さいことを考慮して、プロセスが簡素化されています。これによって、事務処理の要件が軽減され、臨床試験の準備期間を短縮でき、試験を迅速に進めることができます。

CTRは欧州における臨床試験の規制環境を改善する一方で、関係者による対応が求められる新たな課題もいくつか提起されています。本規則がもたらす主な課題として次のことが挙げられます:

•    複雑な適応プロセス
新規則には以前の仕組みからの大幅な変更が含まれているため、臨床試験を成功裏に実施するためには関係者全員が新規則に正しく適応することが求められます。新規則を遵守するためには、すべての関係者の意識を高めること、そして、教育と訓練の機会が提供されることが重要です。リニカルは新CT規則を遵守することの重要性を認識しており、EU薬事チームは、新CTRの下でCTISによる治験申請を正しく行えるよう、組織を再構築し、必要な訓練を行っています。リニカルは新しいCTRの下で、既に、申請を実施しています。

•    個人情報の保護と透明性の問題
新しい規則は透明性を向上する観点から試験結果の要約を公表することを義務付けていますが、本要件は公のEU臨床試験データベースに個人情報が公開されうるという懸念を含んでいます。申請者は、プライバシーや機密情報を削除したものと、削除する前の未編集のものの2種の書類を提出することが求められます。そのため、書類の作成により多くの労力が必要です。

•    継続中の臨床試験へのCTISの適用
臨床試験の終了予定日が2025年1月31日以降の場合、その臨床試験にはCTISが適用されます。臨床試験がCTRに準拠していない場合(プロトコルのバージョンが国によって異なるなど)、治験依頼者は最初に文書改訂の承認を得るために改訂書を提出することが求められます。この改訂書が承認されて初めて、CTISの適用が可能となります。

まとめますと、臨床試験規則(EU) No.536/2014はEU域内の臨床試験規則の統一と強化に向けた重要な一歩を踏み出すものです。CTRはEU域内の臨床試験環境を改善することを目的としていますが、一方で、重大な課題も含んでおり、その対応には関係者全員による慎重な検討と協力が必要です。新規則の内容をよく読み解くことにより、規則を効果的に活用して申請作業などを効率的に進めることができます。ただし、最初に、規制の動向などについて最新の情報を集める必要があります。臨床試験の実施環境は絶えず変化しています。規則はいつでも変わりうるものです。最新規則については欧州医薬品庁(EMA)やEU加盟国の監督官庁などの公式の情報源を参照してください。臨床試験規則に関するガイダンス、告示、最新情報などについては、該当のウェブサイトで定期的に確認してください。

※本記事は2023年7月27日にリニカルヨーロッパが発信した英文記事の翻訳をもとに作成したものです。

筆者:
Jowita Wojciechowska 
Director Regulatory Affairs – Linical Western Region Compliance Department

薬事に関するサービス内容の詳細はお問い合わせください。

THE LATEST