世界の製薬イノベーションの構造が再編される中、中国の臨床試験は「追随」から「並走」へと進化し、被験者リソース、効率的な被験者登録、競争環境、商業化の面で大きな優位性を確立しています。中国は、グローバル新薬開発の中核拠点として存在感を高めており、特にがん領域では、抗体薬物複合体(ADC)などの革新的医薬品の第 II・III 相試験において、この優位性が顕著に示されています。これにより、世界の新薬開発を効率的に進めるための重要なルートが形成されています。
中国の主要な優位性
中国は、被験者数の規模において欧米諸国を大きく上回っています。
国際がん研究機関(IARC)が発表した「2022年世界がん統計レポート」(2024年4月 Journal of Clinical Oncology 掲載)[i]によると、中国は新規がん罹患数・死亡数ともに世界最多です。
2022年の世界の新規がん罹患数は 1,997.6 万件で、そのうち中国は 482.5 万件を占め、世界全体の 24%以上に相当します。これにより、幅広い年齢層・身体状況の潜在的被験者を確保でき、薬剤の有効性・安全性をより包括的に評価することが可能です。欧米で課題となる被験者募集の難しさや人口構造の均質性に比べ、中国では試験基準を満たす被験者を迅速に集めることができます。
非小細胞肺がんを例にすると、中国本土で実施された 379 件の第 III 相試験では、平均被験者登録速度は 1.12 名/施設/月[i]であり、米国・ドイツ・ポーランドなどの欧米先進国を大きく上回っています。
中国の医療体制は高度に集中化されており、三級甲等医院(中国の病院格付け制度における最高ランクに分類される大規模な総合病院)や専門がん病院が多数存在します。さらに、中国内スポンサーは試験施設との連携が密で、倫理審査や患者属性に精通しており、募集時の課題にも迅速に対応できます。また、「黙示承認(tacit approval)」制度(国家薬品監督管理局(NMPA)への治験(IND)申請後、当局から一定期間内に異議や拒否の通知がなければ、自動的に承認されたとみなして臨床試験を開始できる制度)により、臨床試験の開始に要する時間が大幅に短縮され、被験者登録の効率がさらに向上しています。
中国の競争優位性
中国の臨床試験環境は競争面でも際立っています。欧米では多国籍製薬企業が限られた高品質医療リソースと被験者を奪い合い、試験コストも高騰します。一方、中国の第III相試験における患者一人当たりの直接コストは 米国の3分の1[i]に過ぎません。
また、中国の新薬開発エコシステムは急速に成熟しており、国内製薬企業の台頭により競争環境はより柔軟になっています。CRO/SMOの成熟した体制も試験を強力に支援します。
ADC領域では、2025 年に中国は世界の新規ADC試験開始数の34%を占め、米国の31%[ii]を上回りました。
例えば、恒瑞医薬のHER2 ADC「SHR-A1811」は、非小細胞肺がんの第I/II相試験において競合試験がほぼ存在せず、リソースを集中して開発を進めることができました。その結果、第II相の主要データを迅速に取得し、優先審査(条件付き承認)を獲得して市場投入を加速しました。
一方、欧米では同時期に複数の類似ADCが第I/II〜III相試験を実施しており、被験者の分散が深刻化し、試験進捗が繰り返し遅延しました。
世界第2位の医薬品市場
商業化の面でも、中国は欧米より大きな優位性を持っています。中国は世界第2位の医薬品市場であり、規制当局は「30日迅速審査制度」を導入し、革新的医薬品の承認までの期間を大幅に短縮しています。
さらに、医療保険制度の整備が進み、革新的医薬品が迅速に保険収載され、市場浸透が加速しています。
恒瑞医薬の HER2 ADC「SHR-A1811」は、HER2 陽性進行・転移性乳がんの第 III 相試験を完了後、画期的治療薬に指定され、優先審査を経て わずか6か月で承認されました。2026年版 CSCO乳がん診療ガイドラインにも即座に新規推奨治療として掲載され、さらに迅速に国家医療保険にも収載されました。
対照的に、欧米では第III相試験完了後の承認に12〜18か月、保険収載には3〜5年を要することが一般的であり、中国の商業化効率は圧倒的に高いと言えます。
まとめ
中国の臨床試験が持つ強み(被験者規模、迅速な被験者登録、競争環境、商業化のスピード)は、革新的医薬品開発を強力に支える基盤となっています。腫瘍領域のADC製品が示すように、中国はグローバル臨床試験の重要拠点として確固たる地位を築いており、今後もその優位性を活かして世界の製薬イノベーションを牽引していくでしょう。
参考文献:
U.S. Food and Drug Administration (FDA)
著者:
Gerald Li- Regulatory Affairs Director
Kelvin Yu, Business Development Manager
本ブログは、弊社HP英語版のブログ記事を翻訳して作成しております。原文は以下よりご確認ください。